冬の数学日記(Mathematic Diary in Winter)

数学系の話題がメインですが、他のことも多分書きます。

体の拡大とトレース

昔に考えていたことがふと解決したので書いておきます. 

 

L/kを体のn次分離拡大とする. Lを含む代数的閉体Fを固定する.

(例えば, {k=\mathbf{Q}, F = \mathbf{C}}という状況を考える. この時L/kは必ず分離拡大になる.)

 ・LからFへのK準同型は全部でn個あることが証明できるので, それを{\sigma_1, \ldots, \sigma_n}と書く.

・Lの元xに対して{f_x:L \rightarrow L:l \mapsto xl}はk線形写像である. xのL/kにおけるトレースを {\rm{Tr}_{L/k}(x):= \rm{Tr(f_x)}}で定める.

この時, 次の事実は, (体論をよく使う人には)よく知られている:

定理1任意の {x \in L}に対して{\rm{Tr}_{L/k}(x) = \sum_{i=1}^n \sigma_i(x) }が成り立つ.

 今回は次の事実(メイン !)を経由して上の公式を示そう. 

定理2{g_x:L\otimes_kF \rightarrow L\otimes_kF}{g_x(a\otimes b)=ax \otimes b}で定める. この時F線型写像{g_x}固有値は重複も込めて{\sigma_1(x), \ldots, \sigma_n(x)}である.

証明は{g_x}の特性多項式が(xの最小多項式)^d (d=[L:k(x)])であることを示せばよく, これはそんなに大変でない.□

 

しかし, この場合固有値に対応する固有ベクトルがわからない. 次の主張を認めれば, 固有ベクトルを特定する形で証明ができる.

命題 3Vをn次kベクトル空間, {v_1,\ldots,v_n}を基底, {f:V\rightarrow V}線型写像, Aを{v_1, \ldots, v_n}に関するfの表現行列とする.この時Vの基底{w_1,\ldots,w_n}でfの表現行列が{A^{t}}になるようなものがある.

ブログを書いた時は多分成り立つでしょうという感じでしたが、証明しました(証明はここに書きました; http://wagomu.hatenablog.com/entry/2015/05/03/061454)

 

定理2の証明にもどります。

まず, L/kの基底{v_1, \ldots, v_n}をとり{f=f_x}に対して命題3の保証する{w_1,\ldots,w_n}をとる.ここで, {a = v_1\otimes \sigma(w_1) + \cdots + v_n\otimes \sigma(w_n)} (σはLからFへのk準同型)としてさだめる.

すると{g_x(a) = \sigma(x)a}となる.

 

「k上の共役」という概念が「同じ最小多項式を有するもの」「k準同型による移り先」以外にも「掛け算作用素固有値になっているもの」という言い換えが出来るのは少し、面白いと思いました。