冬の数学日記(Mathematic Diary in Winter)

数学系の話題がメインですが、他のことも多分書きます。

Reduced Traceについて

定理3' について、忘備録として書いておきます。

 

最近、書こうとしたことをキレイに忘れることがよくあって、この記事もそういう感じで書いたり消したりを繰り返し、忘備録だったはずなのに計24時間くらいかけてしまった気がします。

まあ多分、キーボードに必死だというのが決定的なんですが

 

まず、reduced traceの定義を書いておきます。これは体k上の単純環に対して定義されます。

 

kを体, Aをk上(環として)有限生成な単純環とする. K=Z(A)をAの中心とする.

命題1K=Z(A)はAの部分体.

 証明: {I \subset K}イデアルとする. {IA}はAのイデアルだから0かAである.

よって, I=0またはIA=Aである.

IA=Aとすると{a \in A}{b \in I}{ab=1}となるもんもがある. すると{a \in Z(A)}となるのでI=Kが言える.

よってKは体である. □

 

以降, K=k とする.

 

さて, 次の定理が知られている.

定理2Kの拡大Lと自然数mで{A\otimes_K L= \mathrm{M}_m(L)}となるものがある.

 

 このようなLをAの分解体という.

すると, {a \in A}に対して, {a\otimes 1 \in \mathrm{M}_m(L)}と見たときの{\mathrm{red.Tr_A}(a) := \mathrm{Tr}(a \otimes 1)}をaのAに関するreduced traceという.

分解体として有限次分離拡大がとれることが知られている.

Lが分解体, M/Lを拡大とするとMも分解体である. 特にKの代数的閉包は分解体になることが分かる.

{\mathrm{red.Tr_A}(a)}は分解体Lのとり方によらないこともすぐ分かる. 

 

さて, 次のような場合に, reduced traceと通常のtraceの関係を調べてみます。

 

kを体, Rをk-algebra, Wを既約R加群とする.(例えば, R=k[G]として表現論へ応用する).

ここでWは有限次kベクトル空間であると仮定する. {n=\mathrm{dim}_k(W)}とする. すると{D:= \mathrm{Hom}_R(W,W)}は斜体となる.

K=Z(D)とするとDはK上の中心的単純環である.

{f:W \rightarrow W}をR準同型とする.

 

次の定理が主定理である.

 

定理3{\mathrm{red.Tr}_D(f) = (m/n)\mathrm{Tr}(f)}

 

キーとなる次の命題を示しておく.

 

命題4Fを体, Vをn次Fベクトル空間とする. {f:V \rightarrow V}をF線型写像とする. {\mathrm{M}_f:\mathrm{End}_F(V) \rightarrow \mathrm{End}_F(V): g \mapsto fg} とする. (これはF線型写像である.) この時, {n\mathrm{Tr}(f) = \mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f)} が成り立つ.

 証明: 必要なら{\otimes \overline{F}}することで, Fは代数閉体であると仮定して良い.

{f:V \rightarrow V}固有値{\lambda_1, \ldots, \lambda_n}, 対応する固有ベクトル{v_1, \ldots, v_n}とする.

{f_{ij}:V \rightarrow V: \sum_{t=1}^n a_tv_t \rightarrow a_iv_j} とすると, {\mathbf{M}_f(f_{ij}) = f \circ f_{ij} = \lambda_j f_{ij}}.

すると, {\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f) = \sum_{i,j} \lambda_j = n\sum_j \lambda_j = n\mathrm{Tr}(f)}. □

 

補題4Fを体, S有限次F algebra, Mを自由S加群とする. この時, {s \in S}に対して{[M:S]\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_s) = \mathrm{Tr}(\mathrm{M'}_s)}. ただし, {\mathrm{M}_s:S \rightarrow S, \mathrm{M'}_s:M \rightarrow M}とする.

証明は簡単である.□

 

 定理3を証明する.

 

{M_m(\overline{K}) = D \otimes_K \overline{K} = \mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \subset \mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

 

{\mathrm{M}_f:\mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

{\mathrm{M'}_f:\mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \rightarrow \mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

とする.

 

 すると, {\mathrm{red.Tr}_D(f) = (1/m)\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f) = (m/n^2)\mathrm{Tr}(\mathrm{M'}_f) = (m/n)\mathrm{Tr}(f)}

 

※Wは1次元{D=\mathrm{Hom}_{R}(W,W)}ベクトル空間だから, n=m^2である. よってm/n = 1/m.

※定理3はもう少し拡張できる. {V = W^l}として,{A=\mathrm{Hom}_R(V,V)}はK=Z(D)上の中心的単純環である. {f:V \rightarrow V}をR準同型とする.

定理3'{\mathrm{red.Tr}_A(f) = (1/m)\mathrm{Tr}(f)}