冬の数学日記(Mathematic Diary in Winter)

数学系の話題がメインですが、他のことも多分書きます。

Jordan標準形を使ったらできた

 

以前の記事「体の拡大とトレース」

http://wagomu.hatenablog.com/entry/2015/04/11/175540

で証明できていなかった命題(命題3)が証明できたので紹介します。タイトル通り、Jordan標準形の理論を使ったらできました。小ネタにどうぞ。

 

Jordan標準形

まず、一般の体上のJordan標準形の理論を、できるだけ大事な点に絞って説明します。

kを体, Vをn次k線形空間, {f:V\rightarrow V}線型写像とする。また, Vのk基底(v_1,\ldots,v_n)をとり, (v_1,\ldots,v_n)に関するfの表現行列がXであるとする.

Vは次の作用によって{k[T]}加群になる;

{k[T] \times V \rightarrow V : (a_0 + a_1T + \cdots + a_mT^m, v) \mapsto a_0 + a_1f(v) + \cdots + a_m f^m(v)}

ここで{a_0,\ldots a_m}はkの元, {f^m}はm回の合成を表している.

Jordan標準形に変形するというのはfに適したVの基底をとりなおす、ということを意味しています。ここでは{k[T]}加群という新しい構造をいれて、そこでの代数の力を借りて、「良い」基底を作り出すわけです。

 Vは当然{k[T]}加群として{v_1,\ldots,v_n}で生成されるから,

{\varphi:k[T]^n \rightarrow V: (f_i(T))_i \mapsto (f_i(v))}

という全射{k[T]}準同型がある.さらに, 次の列は完全系列になることが分かる;

{k[T]^n \rightarrow k[T]^n \rightarrow V \rightarrow 0}.

但し, 一番左の写像{T\cdot I_n - X \in \mathrm{M}_n(k[T])}による{k[T]}準同型, 真ん中の写像は先ほどの{\varphi}である.

 ここで単因子論と呼ばれている次の事実を認める;

 

単因子論RをPID,{Y \in \mathrm{M}_s(R)}とする.この時, ある{P,Q \in \mathrm{GL}_s(R)}があって

(★)f:id:Wagomu:20150502185905p:plain

 この{(d_1, \ldots ,d_s)} with {d_1|d_2|\cdots|d_s}を単因子という. (単因子はYから一意的に決まることも示せる.)

 上の事実のRを{k[T]}として, {d_i}{d_i(T)}にして適用する.Vが有限生成{k[T]}加群だから{d_i(T) \not=0}である.

次の可換図式が成り立つ.

 (☆)

f:id:Wagomu:20150502192625p:plain

訂正:上の図式の{P}{Q^{-1}}に, {Q}{P}に訂正します。

この可換図式より, {k[T]}同型, (特にk同型でもある) {V \cong \oplus_{i=1}^h k[T]/(d_i(T))}が得られる. これが「良い」基底変換を与える. 即ち, {V_i}をこの同型で {k[T]/(d_i(T))}に対応するVの部分空間とすれば, この同型が{k[T]}同型であたことから{f(V_i) \subset V_i}であって, さらに{k[T]/(d_i(T))}のk基底{(1,T,\ldots,T^l)}に対応する{V_i}の基底{(w_1, \ldots,w_n)}に関する{f |_{V_i}}の表現行列は

f:id:Wagomu:20150502184319p:plain

(但し{d_i(T) = b_0 + b_1T + \cdots + b_{l-1}T^{l-1} + T^l})

となる. (これの直和をとったものを標準形(☆☆)と呼ぶことにする).

 

大切なのは標準形(☆☆)が単因子論の変形(★)からスタートして図式(☆)で計算できる点であり、今回の主命題もそれを使う。

もうひとつ, この標準形は体kが任意で良い。一般的に言われるJordan標準形は代数的閉体でできる。

 

ここでの議論の詳細は単因子論は堀田先生の「代数入門」(裳華房) の2章など, ホモロジー代数は適当なホモロジー代数の本を参照してください。

 

命題の証明

さて、本題へとりかかります。

命題Vをn次kベクトル空間, {v_1,\ldots,v_n}を基底, {f:V\rightarrow V}線型写像, Aを{v_1, \ldots, v_n}に関するfの表現行列とする.この時Vの基底{w_1,\ldots,w_n}でfの表現行列が{A^{t}}になるようなものがある.

証明:命題は, 次の主張へ言い換えができる;

{A \in \mathrm{M}_n(k)}に対し, {P \in \mathrm{GL}_n(k)}が存在して{A^t = P^{-1}AP}を満たす. (ここで{A^t}は転置である)

{Q_1(T\cdot I_n - A)Q_2}が単因子が対角成分に並ぶような{Q_1, Q_2 \in \mathrm{GL}_n(k)}をとってくる. この時, {{Q_2}^t(T\cdot I_n - A^t){Q_1}^t}も単因子が対角成分に並んでいる.(両者の単因子が一致している)

したがって標準形(☆☆)が単因子から一意的に定まることより{A,A^t}両者の標準形(☆☆)はひとしい. 即ち, ある{P_1,P_2 \in \mathrm{GL}_n(k)}が存在して{{P_1}^{-1}AP_1 = {P_2}^{-1}A^tP_2}が成り立つので主張が示された.   □