行列の同時標準化
同時対角化は有名ですが、同時三角化もあります。残念ながら、同時ジョルダン標準化は出来ません(Remark)。しかし、それより少し弱い結果なら成立します(Theorem3+Theorem1).
kは代数閉体とします。
Proof.
の部分空間の列で, 各, 各についてが成り立つようなものが取れれば良い.
このような列の存在をnについての帰納法で示す.
n=1の時は成立
n>1の時
・全てのについてがスカラー倍写像の時, 主張は明らかに成立.
この時, の固有値bを一つとれば, が成立し, とおくときがと可換だったのでが各で成立する.
帰納法の仮定をW,V/Wにそれぞれ適用すれば, Vに対して目的の部分列が作れる. □
Proof.
nについての帰納法で証明する.
n=1の時, 主張は明らか.
n>1の時,
・全てのについてがスカラー倍写像の時, 主張は明らかに成立.
この時, の任意の固有値bに対して, が成立し, とおくときがと可換だったのでが各で成立する.
(cはBの固有値を渡る) と分解するから次のclaimを示せば帰納法の仮定からTheoremも示される.
claim: 各について, は対角化可能である.
は対角化可能だから, の固有値を(重複許さず)とすると, と分解する.
をと書くとき,
(★)
となる. についてが成り立つから (★) から各について が成り立つ.
従って, と分かり, これはが対角化可能であることを意味する.□
(この証明はkが代数閉体であることを使っていません!)
Proof.
n=についての帰納法で証明する.
n=1の時, 主張は明らか.
n>1の時,
とAの固有値aに対し, とおく.
・すべてのとAの固有値aに対し, が成立する時, Aに対する唯一の固有値をとおくとき, が環準同型であることを示す;
Theorem1のCorollaryよりの共通の固有ベクトルvがとれる.
この時, 全てのに対しが成り立つ.
に対してが(o(,)が加法, 減法, 掛け算の時に)成立する.
したがって, fが環準同型と分かる.
・でなるものがあるとする.
(cはBの固有値を渡る) と分解する.
各について, が成り立つから帰納法の仮定よりが成り立つ.
従って が成り立ち, も示せる. □
Remark
一般に同時ジョルダン標準化は出来ない.
例えば
とおく. まず
(☆) AB=BA
である.
Bのジョルダン標準形はB自身もしくは
であり, Aのジョルダン標準形は
であることが計算できる.この時,
(☆☆)BJ≠JB, B'J≠JB'
であることに注意する.
もしAとBが同時ジョルダン標準化可能(つまりがともにジョルダン標準形となる可逆行列Pが存在する)ならば(☆)よりJB=BJもしくはJB'=B'Jが成り立つはずであるが, これは(☆☆)に矛盾する.