冬の数学日記(Mathematic Diary in Winter)

数学系の話題がメインですが、他のことも多分書きます。

Henselの補題の証明とNewton法

Henselの補題の証明とNewton法の類似を解説します. この類似はもう少し重要なことを含んでいて, それはTaylar展開が多項式に対しては代数的に証明出来るため, 一次近似という考え方がp進でも使える(しかもp進の方が良い近似)ということです. これらについて説明します.

 

まず, 一般的な原理から

定理1{X}を空でないハウスドルフ位相空間,{\phi:X \rightarrow X}連続写像とする. {x_0 \in X}をとり, {n \geq 1}に対して{x_n := \phi(x_{n-1})}帰納的に点列{(x_n)}を定める.もし点列{(x_n)}{x \in X}に収束するならば{\phi(x)=x}が成り立つ.

証明

{\phi(x) = \phi(\lim_{n \rightarrow \infty}x_n) = \lim_{n \rightarrow \infty}\phi(x_n) = \lim_{n \rightarrow \infty} x_{n+1} = x}

 

つぎに, 類似のカギになっているTaylorの定理(の特別な場合)を観察します.これは一次近似の精度を表現しています.

定理2(Talorの定理){f:(a,b)\rightarrow \mathbb{R}}を2回微分可能な関数とする. {c \in (a,b)}とする. この時, 任意の{x \in (a,b)}に対し, xとcの間にあるyが存在して, {f(x)=f(c)+(x-c)f'(c)+(1/2)(x-1)^2f''(y)}を満たす.

 

多項式に対しては代数的に微分が定義され, テイラー展開が代数的に直接証明されます.積の微分法, 合成関数の微分などがやはり代数的に証明され抽象代数においても重要な役割を果たします.

定理3(多項式のTaylor展開)Rを標数0の可換環(i.e.{\mathbf{Z} \mapsto R:n\mapsto n\cdot 1}単射)とする.また, {c \in R}とする. この時,任意の{f(T) \in R[ T] }に対し, {f(T) = f(c) + (T-c)f'(c) + (1/2)(T-c)^2f''(c) + \cdots + (1/n!)(T-c)^nf^{(n)}(c) + \cdots} が成り立つ. 特に, ある多項式gが存在して{f(T) = f(c) + (T-c)f'(c) + (T-c)^2g(T)}となる.

 

定理2は実解析における{T-c}が十分小さいという状況で一次近似の精密さを表している一方で定理3は例えばRが付置環, {T}{T-c}が大きい付置を持つように取ったという状況での一次近似の精密さをあらわしています. 

 

それではNewton法, Henselの補題の証明を順次説明していきます.

 

Newton法

{f:[a,b]\rightarrow \mathbf{R}}を1階微分可能関数とし{f(a) \lt 0, f(b) \gt 0, f'(x) \gt 0 (\forall x \in [a,b])}とします.

点列{(x_n)}を次のように定める; {x_0 \in [a,b]}を適当にとり,{n \geq 2}に対しては {x_n:= x_{n-1}-f(x_{n-1})/f'(x_{n-1})}帰納的に定めます.これは{(x_{n-1},f(x_{n-1}))}におけるfの接線とx軸の交点のx座標を表しています.

もし点列{(x_n)}{p \in [a,b]}に収束するなら, 定理1を{\phi(x) = x - f(x)/f'(x)}として適用することにより, {p=p-f(p)/f'(p)}即ち{f(p) = 0}が得られます.

 

さて, Talorの定理の立場から{(x_n)}の構成を考えてみます.fを2階微分可能と仮定します.

{f(x) = f(x_{n-1}) + (x- x_{n-1})f'(x_{n-1}) + (1/2)(x-x_{n-1})^2f''(y(x))}において{x}{x_n}を代入すると{f(x_n) = (1/2)(x_n - x_{n-1})^2f(y(x_n))}となります. (つまり, 点{(x_{n-1},f(x_{n-1}))}におけるfの接線とx軸の交点のx座標とはfの{x_{n-1}}における1次近似が0になるようなもののことです.)

 

Henselの補題

定理4(Henselの補題)Rを可換環, IをRのイデアルとする. RはI進位相について完備であると仮定する. {f(T) \in R[ T ]} とする.{\overline{f}(T)}{f}{R/I} での像とする. {\alpha \in R/I}{\overline{f}(\alpha)=0, \overline{f}'(\alpha) \not= 0} となるものがあるとする.この時, {a \in R}{\overline{a}=\alpha, f(a)=0} となるものがある.

証明

{a_0 \in R}{\overline{a_0}=\alpha}なるものとする. {a_0}でのTaylor展開を{f(T) = f(a_0)+(T-a_0)f'(a_0)+(T-a_0)^2g_0(T)}とする.

{a_1 \in R}{f(a_0) + (a_1-a_0)f'(a_0)=0}となるものとする. この時, {a_1-a_0 \in I}であり{f(a_1) = (a_1-a_0)^2g_0(T) \in I^2}である.

同様に, {n \geq 2}に対し, {f(T) = f(a_{n-1}) + (T-a_{n-1})f'(a_{n-1})+(T-a_{n-1})^2g_{n-1}(T)}をTalor展開とし, {a_n \in R}{f(a_{n-1}) + (a_n-a_{n-1})f'(a_{n-1}) = 0}となるようにとる.この時, {a_n-a_{n-1} \in I^n}であり, {f(a_n)=(a_n-a_1)^2g_{n-1}(a_n) \in I^{n+1}}である.

{x \in a_0+I}に対し, {\phi(x) = x - f(x)/f'(x)}{\phi:a_0+I \rightarrow a_0+I}を定める.{(a_n)}はCauchy列だからある{a \in a_0+I}に収束し, よって定理1を適用して{\phi(a)=a}即ち{f(a)=0}を得る.□

 

 

一般化されたヘンゼルの補題というものがありますが、これについては気が向いたら書きます。