冬の数学日記(Mathematic Diary in Winter)

数学系の話題がメインですが、他のことも多分書きます。

行列の同時標準化

同時対角化は有名ですが、同時三角化もあります。残念ながら、同時ジョルダン標準化は出来ません(Remark)。しかし、それより少し弱い結果なら成立します(Theorem3+Theorem1).

 

kは代数閉体とします。

 

 

Theorem1(同時三角化){\{A_\lambda \in \operatorname{M}_n(k) \}_{\lambda \in \Lambda} }をどの2つも互いに可換な行列とする.この時, 可逆行列Pで各{\lambda \in \Lambda}に対し{P A_\lambda P^{-1}}が上三角行列になるものが存在する.

Proof.

{k^n}の部分空間の列{0=V_0 \subsetneqq V_1 \subsetneqq \cdots \subsetneqq V_n =V= k^n}で, 各{\lambda \in \Lambda}, 各{i = 1,\ldots,n}について{ A_\lambda V_i \subset V_i}が成り立つようなものが取れれば良い.

このような列の存在をnについての帰納法で示す.

n=1の時は成立

n>1の時

・全ての{\lambda}について{A_\lambda}スカラー写像の時, 主張は明らかに成立.

{B= A_{\lambda_0},\lambda_0 \in \Lambda}スカラー写像でないとする.

この時, {B}固有値bを一つとれば, {0 \subsetneqq \operatorname{ker}(B - bI) \subsetneqq V}が成立し, {W := \operatorname{ker}(B - bI)}とおくとき{\{A_\lambda \}_{\lambda \in \Lambda}}{B}と可換だったので{A_\lambda(W) \subset W}が各{\lambda \in \Lambda}で成立する.

帰納法の仮定をW,V/Wにそれぞれ適用すれば, Vに対して目的の部分列が作れる. □

Corollary(同時固有ベクトルの存在)Vを有限次元kベクトル空間, { \{ f_\lambda \in \operatorname{End}_k(V) \}_{\lambda \in \Lambda}}をどの2つも互いに可換な線形写像の族とする. この時,{ \{ f_\lambda \}_{\lambda \in \Lambda}} は共通の固有ベクトルを少なくとも一つもつ.

 

 

 

Theorem2(同時対角化){\{A_\lambda \in \operatorname{M}_n(k) \}_{\lambda \in \Lambda} }をどの2つも互いに可換な行列とする.さらに, 各{\lambda \in \Lambda}に対し{A_\lambda}は対角化可能であるとする. この時, 可逆行列Pで各{\lambda \in \Lambda}に対し{P A_\lambda P^{-1}}が対角行列になるものが存在する.

Proof.

nについての帰納法で証明する.

n=1の時, 主張は明らか.

n>1の時,

・全ての{\lambda}について{A_\lambda}スカラー写像の時, 主張は明らかに成立.

{B= A_{\lambda_0},\lambda_0 \in \Lambda}スカラー写像でないとする.

この時, {B}の任意の固有値bに対して, {0 \subsetneqq \operatorname{ker}(B - bI) \subsetneqq k^n}が成立し, {W := \operatorname{ker}(B - bI)}とおくとき{\{A_\lambda \}_{\lambda \in \Lambda}}{B}と可換だったので{A_\lambda(W) \subset W}が各{\lambda \in \Lambda}で成立する.

{k^n = \oplus_c \operatorname{ker}(B - cI) } (cはBの固有値を渡る) と分解するから次のclaimを示せば帰納法の仮定からTheoremも示される.

claim: 各{\lambda}について, {A_\lambda |_W \in \operatorname{End}_k(W)}は対角化可能である.

 {A_\lambda}は対角化可能だから, {A_\lambda}固有値{a_1,\ldots, a_s}(重複許さず)とすると, { k^n = V(a_1) \oplus \cdots \oplus V(a_s) \ (V(a_i) = \operatorname{ker}(A_\lambda - a_iI))}と分解する.

{ w \in W}{ w = x_1 + \cdots + x_s \ (x_i \in V(a_i))}と書くとき,

(★) { bx_1+ \cdots + bx_s = bw = Bx = Bx_1 + \cdots + Bx_s }

となる. {i=1,\ldots,s}について{BV(a_i) \subset V(a_i)}が成り立つから (★) から各{i=1,\ldots,s}について { Bx_i = bx_i}が成り立つ.

従って, {W = W \cap V(a_1) \oplus \cdots \oplus W \cap V(a_s)}と分かり, これは{A_\lambda |_W \in \operatorname{End}_k(W)}が対角化可能であることを意味する.□

(この証明はkが代数閉体であることを使っていません!)

 

 

Theorem3Vを有限次元kベクトル空間, {R \subset \operatorname{End}_k(V)}を可換な部分環とする. 環準同型{\alpha:R \rightarrow k}に対して{V \langle\alpha\rangle:=\{ v \in V \mid \exists n \in \mathbf{N}, \forall A \in R, (A-f(A)I)^nv=0 \}}と定める. この時, {V = \oplus_{\alpha \in Hom(R,k)}V\langle\alpha\rangle }が成り立つ.

Proof.

n={\dim_kV}についての帰納法で証明する.

n=1の時, 主張は明らか.

n>1の時,

{A \in R}とAの固有値aに対し, {V_A \{a\} := \{ v \in V \mid \exists N \in \mathbf{N}, (A - aI)^Nv = 0 \}}とおく.

・すべての{A \in R}とAの固有値aに対し, {V_A\{a\} = V}が成立する時, Aに対する唯一の固有値{a_A}とおくとき, {f:\operatorname{End}_k(V) \rightarrow k:A \mapsto a_A}が環準同型であることを示す;

   Theorem1のCorollaryより{\{A \in R\}}の共通の固有ベクトルvがとれる.

   この時, 全ての{A \in R}に対し{Av = a_Av}が成り立つ.

   {A,B \in R}に対して{a_{o(A,B)}v = o(A,B)v = o(a_A,a_B)v}が(o(,)が加法, 減法, 掛け算の時に)成立する.

   したがって, fが環準同型と分かる.

{B \in R}{0 \subsetneqq V_B \{ b\}  \subsetneqq V }なるものがあるとする.

{V = \oplus_c V_B\{ c \}} (cはBの固有値を渡る) と分解する.

{A \in R}について, {A \cdot V_B\{ c \} \subset V_B\{ c \} }が成り立つから帰納法の仮定より{V_B\{ c\}= \oplus_\alpha (V\langle \alpha \rangle \cap V_B \{ c\})}が成り立つ.

 従って {V = \Sigma_{\alpha} V\langle \alpha \rangle}が成り立ち,  {V = \oplus_{\alpha} V\langle \alpha \rangle}も示せる. □

 

 

 

Remark

一般に同時ジョルダン標準化は出来ない.

例えば

f:id:Wagomu:20161215014550p:plain

とおく. まず

(☆) AB=BA

である.

Bのジョルダン標準形はB自身もしくは

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であり, Aのジョルダン標準形は

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であることが計算できる.この時,

(☆☆)BJ≠JB, B'J≠JB'

であることに注意する.

もしAとBが同時ジョルダン標準化可能(つまり{PAP^{-1},PBP^{-1}}がともにジョルダン標準形となる可逆行列Pが存在する)ならば(☆)よりJB=BJもしくはJB'=B'Jが成り立つはずであるが, これは(☆☆)に矛盾する.

Henselの補題の証明とNewton法

Henselの補題の証明とNewton法の類似を解説します. この類似はもう少し重要なことを含んでいて, それはTaylar展開が多項式に対しては代数的に証明出来るため, 一次近似という考え方がp進でも使える(しかもp進の方が良い近似)ということです. これらについて説明します.

 

まず, 一般的な原理から

定理1{X}を空でないハウスドルフ位相空間,{\phi:X \rightarrow X}連続写像とする. {x_0 \in X}をとり, {n \geq 1}に対して{x_n := \phi(x_{n-1})}帰納的に点列{(x_n)}を定める.もし点列{(x_n)}{x \in X}に収束するならば{\phi(x)=x}が成り立つ.

証明

{\phi(x) = \phi(\lim_{n \rightarrow \infty}x_n) = \lim_{n \rightarrow \infty}\phi(x_n) = \lim_{n \rightarrow \infty} x_{n+1} = x}

 

つぎに, 類似のカギになっているTaylorの定理(の特別な場合)を観察します.これは一次近似の精度を表現しています.

定理2(Talorの定理){f:(a,b)\rightarrow \mathbb{R}}を2回微分可能な関数とする. {c \in (a,b)}とする. この時, 任意の{x \in (a,b)}に対し, xとcの間にあるyが存在して, {f(x)=f(c)+(x-c)f'(c)+(1/2)(x-1)^2f''(y)}を満たす.

 

多項式に対しては代数的に微分が定義され, テイラー展開が代数的に直接証明されます.積の微分法, 合成関数の微分などがやはり代数的に証明され抽象代数においても重要な役割を果たします.

定理3(多項式のTaylor展開)Rを標数0の可換環(i.e.{\mathbf{Z} \mapsto R:n\mapsto n\cdot 1}単射)とする.また, {c \in R}とする. この時,任意の{f(T) \in R[ T] }に対し, {f(T) = f(c) + (T-c)f'(c) + (1/2)(T-c)^2f''(c) + \cdots + (1/n!)(T-c)^nf^{(n)}(c) + \cdots} が成り立つ. 特に, ある多項式gが存在して{f(T) = f(c) + (T-c)f'(c) + (T-c)^2g(T)}となる.

 

定理2は実解析における{T-c}が十分小さいという状況で一次近似の精密さを表している一方で定理3は例えばRが付置環, {T}{T-c}が大きい付置を持つように取ったという状況での一次近似の精密さをあらわしています. 

 

それではNewton法, Henselの補題の証明を順次説明していきます.

 

Newton法

{f:[a,b]\rightarrow \mathbf{R}}を1階微分可能関数とし{f(a) \lt 0, f(b) \gt 0, f'(x) \gt 0 (\forall x \in [a,b])}とします.

点列{(x_n)}を次のように定める; {x_0 \in [a,b]}を適当にとり,{n \geq 2}に対しては {x_n:= x_{n-1}-f(x_{n-1})/f'(x_{n-1})}帰納的に定めます.これは{(x_{n-1},f(x_{n-1}))}におけるfの接線とx軸の交点のx座標を表しています.

もし点列{(x_n)}{p \in [a,b]}に収束するなら, 定理1を{\phi(x) = x - f(x)/f'(x)}として適用することにより, {p=p-f(p)/f'(p)}即ち{f(p) = 0}が得られます.

 

さて, Talorの定理の立場から{(x_n)}の構成を考えてみます.fを2階微分可能と仮定します.

{f(x) = f(x_{n-1}) + (x- x_{n-1})f'(x_{n-1}) + (1/2)(x-x_{n-1})^2f''(y(x))}において{x}{x_n}を代入すると{f(x_n) = (1/2)(x_n - x_{n-1})^2f(y(x_n))}となります. (つまり, 点{(x_{n-1},f(x_{n-1}))}におけるfの接線とx軸の交点のx座標とはfの{x_{n-1}}における1次近似が0になるようなもののことです.)

 

Henselの補題

定理4(Henselの補題)Rを可換環, IをRのイデアルとする. RはI進位相について完備であると仮定する. {f(T) \in R[ T ]} とする.{\overline{f}(T)}{f}{R/I} での像とする. {\alpha \in R/I}{\overline{f}(\alpha)=0, \overline{f}'(\alpha) \not= 0} となるものがあるとする.この時, {a \in R}{\overline{a}=\alpha, f(a)=0} となるものがある.

証明

{a_0 \in R}{\overline{a_0}=\alpha}なるものとする. {a_0}でのTaylor展開を{f(T) = f(a_0)+(T-a_0)f'(a_0)+(T-a_0)^2g_0(T)}とする.

{a_1 \in R}{f(a_0) + (a_1-a_0)f'(a_0)=0}となるものとする. この時, {a_1-a_0 \in I}であり{f(a_1) = (a_1-a_0)^2g_0(T) \in I^2}である.

同様に, {n \geq 2}に対し, {f(T) = f(a_{n-1}) + (T-a_{n-1})f'(a_{n-1})+(T-a_{n-1})^2g_{n-1}(T)}をTalor展開とし, {a_n \in R}{f(a_{n-1}) + (a_n-a_{n-1})f'(a_{n-1}) = 0}となるようにとる.この時, {a_n-a_{n-1} \in I^n}であり, {f(a_n)=(a_n-a_1)^2g_{n-1}(a_n) \in I^{n+1}}である.

{x \in a_0+I}に対し, {\phi(x) = x - f(x)/f'(x)}{\phi:a_0+I \rightarrow a_0+I}を定める.{(a_n)}はCauchy列だからある{a \in a_0+I}に収束し, よって定理1を適用して{\phi(a)=a}即ち{f(a)=0}を得る.□

 

 

一般化されたヘンゼルの補題というものがありますが、これについては気が向いたら書きます。

Reduced Traceについて

定理3' について、忘備録として書いておきます。

 

最近、書こうとしたことをキレイに忘れることがよくあって、この記事もそういう感じで書いたり消したりを繰り返し、忘備録だったはずなのに計24時間くらいかけてしまった気がします。

まあ多分、キーボードに必死だというのが決定的なんですが

 

まず、reduced traceの定義を書いておきます。これは体k上の単純環に対して定義されます。

 

kを体, Aをk上(環として)有限生成な単純環とする. K=Z(A)をAの中心とする.

命題1K=Z(A)はAの部分体.

 証明: {I \subset K}イデアルとする. {IA}はAのイデアルだから0かAである.

よって, I=0またはIA=Aである.

IA=Aとすると{a \in A}{b \in I}{ab=1}となるもんもがある. すると{a \in Z(A)}となるのでI=Kが言える.

よってKは体である. □

 

以降, K=k とする.

 

さて, 次の定理が知られている.

定理2Kの拡大Lと自然数mで{A\otimes_K L= \mathrm{M}_m(L)}となるものがある.

 

 このようなLをAの分解体という.

すると, {a \in A}に対して, {a\otimes 1 \in \mathrm{M}_m(L)}と見たときの{\mathrm{red.Tr_A}(a) := \mathrm{Tr}(a \otimes 1)}をaのAに関するreduced traceという.

分解体として有限次分離拡大がとれることが知られている.

Lが分解体, M/Lを拡大とするとMも分解体である. 特にKの代数的閉包は分解体になることが分かる.

{\mathrm{red.Tr_A}(a)}は分解体Lのとり方によらないこともすぐ分かる. 

 

さて, 次のような場合に, reduced traceと通常のtraceの関係を調べてみます。

 

kを体, Rをk-algebra, Wを既約R加群とする.(例えば, R=k[G]として表現論へ応用する).

ここでWは有限次kベクトル空間であると仮定する. {n=\mathrm{dim}_k(W)}とする. すると{D:= \mathrm{Hom}_R(W,W)}は斜体となる.

K=Z(D)とするとDはK上の中心的単純環である.

{f:W \rightarrow W}をR準同型とする.

 

次の定理が主定理である.

 

定理3{\mathrm{red.Tr}_D(f) = (m/n)\mathrm{Tr}(f)}

 

キーとなる次の命題を示しておく.

 

命題4Fを体, Vをn次Fベクトル空間とする. {f:V \rightarrow V}をF線型写像とする. {\mathrm{M}_f:\mathrm{End}_F(V) \rightarrow \mathrm{End}_F(V): g \mapsto fg} とする. (これはF線型写像である.) この時, {n\mathrm{Tr}(f) = \mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f)} が成り立つ.

 証明: 必要なら{\otimes \overline{F}}することで, Fは代数閉体であると仮定して良い.

{f:V \rightarrow V}固有値{\lambda_1, \ldots, \lambda_n}, 対応する固有ベクトル{v_1, \ldots, v_n}とする.

{f_{ij}:V \rightarrow V: \sum_{t=1}^n a_tv_t \rightarrow a_iv_j} とすると, {\mathbf{M}_f(f_{ij}) = f \circ f_{ij} = \lambda_j f_{ij}}.

すると, {\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f) = \sum_{i,j} \lambda_j = n\sum_j \lambda_j = n\mathrm{Tr}(f)}. □

 

補題4Fを体, S有限次F algebra, Mを自由S加群とする. この時, {s \in S}に対して{[M:S]\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_s) = \mathrm{Tr}(\mathrm{M'}_s)}. ただし, {\mathrm{M}_s:S \rightarrow S, \mathrm{M'}_s:M \rightarrow M}とする.

証明は簡単である.□

 

 定理3を証明する.

 

{M_m(\overline{K}) = D \otimes_K \overline{K} = \mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \subset \mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

 

{\mathrm{M}_f:\mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R_\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

{\mathrm{M'}_f:\mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}}) \rightarrow \mathrm{Hom}_{\overline{K}}(W_{\overline{K}},W_{\overline{K}})}

とする.

 

 すると, {\mathrm{red.Tr}_D(f) = (1/m)\mathrm{Tr}(\mathrm{M}_f) = (m/n^2)\mathrm{Tr}(\mathrm{M'}_f) = (m/n)\mathrm{Tr}(f)}

 

※Wは1次元{D=\mathrm{Hom}_{R}(W,W)}ベクトル空間だから, n=m^2である. よってm/n = 1/m.

※定理3はもう少し拡張できる. {V = W^l}として,{A=\mathrm{Hom}_R(V,V)}はK=Z(D)上の中心的単純環である. {f:V \rightarrow V}をR準同型とする.

定理3'{\mathrm{red.Tr}_A(f) = (1/m)\mathrm{Tr}(f)}

巡回群

小ネタです。

 

定理pを3以上の素数, nを自然数とするとき, {(\mathbf{Z}/p^n\mathbf{Z})^{\times}}巡回群

 

p進数を使った証明です。

証明

まず、Henselの補題より、{\mathbf{Z}_p}は1のp-1乗根の集合{\mu_{p-1}}を含む。さらにHenselの補題から{\mu_{p-1}}{(\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}の代表系となることも分かる。{(\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}巡回群であるということから, 準同型{r:(\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times} \rightarrow {\mathbf{Z}_p}^{\times}}で合成

{ (\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times} \rightarrow {\mathbf{Z}_p}^{\times} \rightarrow (\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}

が恒等写像となるものがとれる. よって, 次の(Abel群の)完全列

{1 \rightarrow N \rightarrow (\mathbf{Z}/p^n\mathbf{Z})^{\times} \rightarrow (\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times} \rightarrow 1}

は分裂する. すなわち, 

 {(\mathbf{Z}/p^n\mathbf{Z})^{\times} = N \times (\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}

である. 

ここで{N = \{ 1+pn \in (\mathbf{Z}/p^n\mathbf{Z})^{\times} \mid n \in \mathbf{Z} \}}である.

すると2つの(連続)全射準同型 exp:{p\mathbf{Z}_p \rightarrow 1+p\mathbf{Z}_p}, {1 + p\mathbf{Z}_p \rightarrow N} の合成を考えると{p\mathbf{Z}_p}が副巡回群でありNが有限群であることからNは巡回群であることがわかる.

ここで, Nの位数はpベキであり, {(\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}の位数はp-1であることから{(\mathbf{Z}/p^n\mathbf{Z})^{\times} = N \times (\mathbf{Z}/p\mathbf{Z})^{\times}}巡回群. □

 

事実として一応知っていたのですが、証明をしたことないなあ、と思い、気分転換に考えてみました。できたら面白いな、というアイデアがいくつかあって本当はもうちょっと別証明をしたかったのですが、完成したのは今の所これだけです…。

 

ちなみに, pが3以上であることは, exp:{p\mathbf{Z}_p \rightarrow 1+p\mathbf{Z}_p}が定義できる(即ち, 級数が収束する)ことに必要です。

 

Jordan標準形を使ったらできた

 

以前の記事「体の拡大とトレース」

http://wagomu.hatenablog.com/entry/2015/04/11/175540

で証明できていなかった命題(命題3)が証明できたので紹介します。タイトル通り、Jordan標準形の理論を使ったらできました。小ネタにどうぞ。

 

Jordan標準形

まず、一般の体上のJordan標準形の理論を、できるだけ大事な点に絞って説明します。

kを体, Vをn次k線形空間, {f:V\rightarrow V}線型写像とする。また, Vのk基底(v_1,\ldots,v_n)をとり, (v_1,\ldots,v_n)に関するfの表現行列がXであるとする.

Vは次の作用によって{k[T]}加群になる;

{k[T] \times V \rightarrow V : (a_0 + a_1T + \cdots + a_mT^m, v) \mapsto a_0 + a_1f(v) + \cdots + a_m f^m(v)}

ここで{a_0,\ldots a_m}はkの元, {f^m}はm回の合成を表している.

Jordan標準形に変形するというのはfに適したVの基底をとりなおす、ということを意味しています。ここでは{k[T]}加群という新しい構造をいれて、そこでの代数の力を借りて、「良い」基底を作り出すわけです。

 Vは当然{k[T]}加群として{v_1,\ldots,v_n}で生成されるから,

{\varphi:k[T]^n \rightarrow V: (f_i(T))_i \mapsto (f_i(v))}

という全射{k[T]}準同型がある.さらに, 次の列は完全系列になることが分かる;

{k[T]^n \rightarrow k[T]^n \rightarrow V \rightarrow 0}.

但し, 一番左の写像{T\cdot I_n - X \in \mathrm{M}_n(k[T])}による{k[T]}準同型, 真ん中の写像は先ほどの{\varphi}である.

 ここで単因子論と呼ばれている次の事実を認める;

 

単因子論RをPID,{Y \in \mathrm{M}_s(R)}とする.この時, ある{P,Q \in \mathrm{GL}_s(R)}があって

(★)f:id:Wagomu:20150502185905p:plain

 この{(d_1, \ldots ,d_s)} with {d_1|d_2|\cdots|d_s}を単因子という. (単因子はYから一意的に決まることも示せる.)

 上の事実のRを{k[T]}として, {d_i}{d_i(T)}にして適用する.Vが有限生成{k[T]}加群だから{d_i(T) \not=0}である.

次の可換図式が成り立つ.

 (☆)

f:id:Wagomu:20150502192625p:plain

訂正:上の図式の{P}{Q^{-1}}に, {Q}{P}に訂正します。

この可換図式より, {k[T]}同型, (特にk同型でもある) {V \cong \oplus_{i=1}^h k[T]/(d_i(T))}が得られる. これが「良い」基底変換を与える. 即ち, {V_i}をこの同型で {k[T]/(d_i(T))}に対応するVの部分空間とすれば, この同型が{k[T]}同型であたことから{f(V_i) \subset V_i}であって, さらに{k[T]/(d_i(T))}のk基底{(1,T,\ldots,T^l)}に対応する{V_i}の基底{(w_1, \ldots,w_n)}に関する{f |_{V_i}}の表現行列は

f:id:Wagomu:20150502184319p:plain

(但し{d_i(T) = b_0 + b_1T + \cdots + b_{l-1}T^{l-1} + T^l})

となる. (これの直和をとったものを標準形(☆☆)と呼ぶことにする).

 

大切なのは標準形(☆☆)が単因子論の変形(★)からスタートして図式(☆)で計算できる点であり、今回の主命題もそれを使う。

もうひとつ, この標準形は体kが任意で良い。一般的に言われるJordan標準形は代数的閉体でできる。

 

ここでの議論の詳細は単因子論は堀田先生の「代数入門」(裳華房) の2章など, ホモロジー代数は適当なホモロジー代数の本を参照してください。

 

命題の証明

さて、本題へとりかかります。

命題Vをn次kベクトル空間, {v_1,\ldots,v_n}を基底, {f:V\rightarrow V}線型写像, Aを{v_1, \ldots, v_n}に関するfの表現行列とする.この時Vの基底{w_1,\ldots,w_n}でfの表現行列が{A^{t}}になるようなものがある.

証明:命題は, 次の主張へ言い換えができる;

{A \in \mathrm{M}_n(k)}に対し, {P \in \mathrm{GL}_n(k)}が存在して{A^t = P^{-1}AP}を満たす. (ここで{A^t}は転置である)

{Q_1(T\cdot I_n - A)Q_2}が単因子が対角成分に並ぶような{Q_1, Q_2 \in \mathrm{GL}_n(k)}をとってくる. この時, {{Q_2}^t(T\cdot I_n - A^t){Q_1}^t}も単因子が対角成分に並んでいる.(両者の単因子が一致している)

したがって標準形(☆☆)が単因子から一意的に定まることより{A,A^t}両者の標準形(☆☆)はひとしい. 即ち, ある{P_1,P_2 \in \mathrm{GL}_n(k)}が存在して{{P_1}^{-1}AP_1 = {P_2}^{-1}A^tP_2}が成り立つので主張が示された.   □ 

日記

B4に

なってしまった…。違う、なることが出来ました。卒業研究では楕円曲線を勉強します。宇宙際幾何の講演をちょっとだけ聞きに行ったのですが、楕円曲線は使われているのか、プロトタイプとして出されたのか分かりませんが登場しました。また、都数で楕円曲線に関するお話を聞く機会もあり、勉強するのが非常に楽しみです。ここの研究室は解析数論の学生が多いので、そちらの話題も(予期せず(?))勉強出来そうです。

 

Riemann-Rochの定理

Liu先生の本(Algebraic Geometry and ArithmeticCurve) Riemann Rochの定理のちょっと前まで進みました。ようやく代数幾何が楽しいと思えてきました。(本当に長い道のりだった)。とはいえ、やはりもう一度復習が必要です…。

 

都数の新入生イントロ

に(OBとして)行きました。食事会では上級生が割と少なくて4,5人の新入生に僕が話をする、みたいな構図になってしまいましたが、逆に僕の方は好き勝手話せた(ヴェイユ予想の話(「数論と幾何」が実感できる例として)をした)し彼らの話もゆっくり聞けたし結果として良かったと思います。やっぱり新入生の数学に対する熱い姿勢は刺激になりますね。アルコールも無くて(人数比的に)ちょっと心配していた値段も安かったので、ほっとしました。

 

 

 

 

体の拡大とトレース

昔に考えていたことがふと解決したので書いておきます. 

 

L/kを体のn次分離拡大とする. Lを含む代数的閉体Fを固定する.

(例えば, {k=\mathbf{Q}, F = \mathbf{C}}という状況を考える. この時L/kは必ず分離拡大になる.)

 ・LからFへのK準同型は全部でn個あることが証明できるので, それを{\sigma_1, \ldots, \sigma_n}と書く.

・Lの元xに対して{f_x:L \rightarrow L:l \mapsto xl}はk線形写像である. xのL/kにおけるトレースを {\rm{Tr}_{L/k}(x):= \rm{Tr(f_x)}}で定める.

この時, 次の事実は, (体論をよく使う人には)よく知られている:

定理1任意の {x \in L}に対して{\rm{Tr}_{L/k}(x) = \sum_{i=1}^n \sigma_i(x) }が成り立つ.

 今回は次の事実(メイン !)を経由して上の公式を示そう. 

定理2{g_x:L\otimes_kF \rightarrow L\otimes_kF}{g_x(a\otimes b)=ax \otimes b}で定める. この時F線型写像{g_x}固有値は重複も込めて{\sigma_1(x), \ldots, \sigma_n(x)}である.

証明は{g_x}の特性多項式が(xの最小多項式)^d (d=[L:k(x)])であることを示せばよく, これはそんなに大変でない.□

 

しかし, この場合固有値に対応する固有ベクトルがわからない. 次の主張を認めれば, 固有ベクトルを特定する形で証明ができる.

命題 3Vをn次kベクトル空間, {v_1,\ldots,v_n}を基底, {f:V\rightarrow V}線型写像, Aを{v_1, \ldots, v_n}に関するfの表現行列とする.この時Vの基底{w_1,\ldots,w_n}でfの表現行列が{A^{t}}になるようなものがある.

ブログを書いた時は多分成り立つでしょうという感じでしたが、証明しました(証明はここに書きました; http://wagomu.hatenablog.com/entry/2015/05/03/061454)

 

定理2の証明にもどります。

まず, L/kの基底{v_1, \ldots, v_n}をとり{f=f_x}に対して命題3の保証する{w_1,\ldots,w_n}をとる.ここで, {a = v_1\otimes \sigma(w_1) + \cdots + v_n\otimes \sigma(w_n)} (σはLからFへのk準同型)としてさだめる.

すると{g_x(a) = \sigma(x)a}となる.

 

「k上の共役」という概念が「同じ最小多項式を有するもの」「k準同型による移り先」以外にも「掛け算作用素固有値になっているもの」という言い換えが出来るのは少し、面白いと思いました。